『Mekanik Destruktiw Kommandoh』(1973)



Mëkanïk Dëstruktïw Kömmandöh  38:50

01 - Hortz fur dehn Stekëhn West / 呪われし人種、地球人
02 - Ïmah süri Dondaï / 永遠の黙示あらば
03 - Kobaïa iss dëh hündïn / 惑星コバイア
04 - Da Zeuhl Wortz Mëkanïk / 賛美歌
05 - Nebëhr Gudahtt / 救世主「ネベヤ・グダット」
06 - Mëkanïk Kömmandöh / 地球文明の崩壊
07 - Kreuhn Köhrmahn ïss dëh hündïn / 森羅万象の聖霊「クロイン・クォアマーン」


 MAGMAの代表的な作品です。現在彼等の作品で容易に入手出来るものに紙ジャケの『Live !』、『Udu Wudu』、『Attahk』が有りますが、世の中の人々がそれだけを聴いてZeuhlなる音楽を判断しているとしたら悲しい限りです。これら3作品は良い作品ですが、偏った内容であることを覚えておいて下さい。
 因みにこれらの作品はMAGMAの作品の中でも必ずしも優れた内容を持っている訳ではありません。何かの縁で偶々販売権を持っている会社が、勝手に売っているだけです。現状ではMAGMAにおいて"真に重要な作品群"は、入手が極めて困難です。

 『Mekanik Destruktiw Kommandoh(M.D.K.)』はその邦題を『呪われし地球人たちへ』と言います。この邦訳と『M.D.K.』の語感から、英語との類推で「機械化破壊部隊」等という物騒な音楽的印象を持たれる方が居たらそれは大いに勘違いです。現在私が知る限りでは「Mekanik」は「楽章」を表します。後の2単語は知りませんが、要するにタイトルに惑わされてはいけないということです。大体、MAGMAというバンド名、それにジャケットを彩る巨大な印章は特にこの日本においては安易な直感を抱かせ易い。それに加えて、コバイア物語なる奇天烈なSFまでセットになっているのですから、自ずと人々の足は遠ざかっていくのでしょうか。

 さてこの曲(上記の通り7つの節に分かれていますが、LP時代の名残で中程に切れ目が一つあるだけで、実質1曲になります)ですが、先程の『Live !』で鮮烈な「Da Zeuhl Wortz Mekanik」〜「Mekanik Zain」という流れを聴かれた方は実は「大したことないじゃん、ただのジャズ・ロックじゃん(Kohntarkはともかく)」と感じたことでしょう。あの『Live !』という作品は私の感覚では楽器による演奏が極まったものであり、それはMAGMAというバンドの約45%程度の側面を見せるものであることに留まります。残りの55%がこのバンドと心中する積りになるかどうかの重要なファクターになります。そしてそれがこのアルバムに見事に結晶しているのです。従って、このアルバムはヴァンデが云う所の"集団自殺の試行"なのです。

 何がこのアルバムを驚異たらしめているのか。ライヴでの「M.D.K.」と比べて圧倒的に異なる点はクリスチャン・ヴァンデのヴォーカリゼーションです。彼の声は怒りに満ちています。それは宗教に救いを求めるかの様な声に近い。祈りを捧げるような、ファルセットと呼ぶには些か病的な発声によるスキャットは反復され、我々を煽動します。特に絶唱を聴かせているのが、「Nebëhr Gudahtt」と「Kreuhn Köhrmahn ïss dëh hündïn」と言うところが皮肉なものです。前者はライヴではただの器楽の演奏に留まり、オリジナルに存在した激烈な表現は影を潜めます。楽器による凶暴な演奏がヴァンデのスキャットを越えた事は未だ嘗て無い。後者の方はライヴでは大抵省略されるパートなのですが、スタジオ録音の方では天を貫く様な高まりを見せる、神の宣告の如きコーラス(中でもヴァンデの声が突出している)が聴けます。一転してヤニック・トップのベースを土台にした地上的コーダが、恰も我々が不浄の地球を高みから見下ろすことを象徴するかの様に演奏され、終焉を告げる発振音と共に意識は遠ざかり、地球を離れ、精神的自殺が遂行されたということです。

 何と言ったら良いのか分かりませんが、彼等の音楽はZeuhl(神聖な音楽)です。つまり、通常皆様が聴かれる様な古典、ジャズ、ロック、オペラ、電子音楽…等といったものとは少し様相を異にするということは大いに注意しておかなければならないでしょう。ルーツはジャズ、それもコルトレーンの(遣り残した)音楽だそうですが、基本的に特殊な形態を採っています。この様な大自由度を持つ音楽はプログレというジャンルで受け容れられましたが、そういった受け皿が在ったこと自体が奇跡だと感じる今日この頃です。そして日本でも少なからず支持を得ていることはさらに不思議です。現実に生活していて強く思います。


 "『Live !』が最高傑作"等というのは旧時代の言説です。初心者の方にこそ、このスタジオ録音を手にして欲しいと願うのです。