『Kohntarkosz』(1974)




Christian Vander - drums, vocals, piano, percussions
Jannick Top - bass, cello, vocals, piano
Klaus Blasquiz - vocals, percussions
Gerard Bikialo - pianos, Yamaha organ
Michel Graillier - pianos, clavinet
Stella Vander - vocals
Brian Godding - guitar


Köhntarkösz Part One  15:24

 マニア以外は『Hhaï』に収録されたものを聴いてオシマイなのでしょうが、余りにも勿体無い。いえ、明らかな損失、寧ろ罪です。この曲の醍醐味は2つあり、1つは「Köhntarkösz Part One」で聴ける気も狂わんばかりの"間"です。このPart Oneは寧ろ『Hhaï』ではその良さが理解仕切れません。その原因は生ピアノが使われていないことに有ると思うのですが、実際私はこの曲はスタジオ録音のものを聴く場合が殆どです。本作で聴ける「Part One」の展開の仕方、先に書きましたがその光と光を隔てる漆黒の"間"には思わず上擦った声を洩らしてしまいます。その"間"を作り出すリズムは不規則なものですが、そこへ叩き付けられる生ピアノの圧倒的存在感と安定感。何て確信的なピアノなのでしょうか。これの表現は鋭角的な生ピアノで無ければ絶対に不可能です。

 「Part One」と「Part Two」を繋ぐ部分は他の部分(フィナーレを含む)を酷評した(自称)評論家にもウケが良かったらしいです。この中間部の調べは確かに大変美しいものですが、ヴァンデも言っていますがどうして彼等はその他のパートにも同様の美しさが感じられないのでしょうか。と言うか「Köhntarkösz」もまともに評価出来ずに良く仕事が勤まるものだと思います。

Köhntarkösz Part Two  16:04

 さて「Köhntarkösz Part Two」です。ヤマハのオルガンが、後にブラスキスの歌唱になる不吉なフレーズを若干胡散臭いリズムで奏でます。この辺りから、ヴァンデのドラムは何時の間にやら強烈な主張を以って無理矢理抑えている感の有るリズムを紡ぎます。彼のドラムは未だ静かなものですが、それでも凄まじい緊張感を放っています。少し雰囲気が変わるおよそ3:37、私はここからトランスします。ヴァンデはやはり抑えた演奏ですが、その一打一打には息が詰まる思いです。ステラのスキャットも加わり、この世で味わえる最上級の静かで美しい世界観を創出します。ここもやはりスタジオ録音がベストですね。

 「Köhntarkösz」のもう一つの魅力はここからです。今迄抑えていた感覚を一気に爆発させる激烈な演奏部分は流石に『Hhaï』が最高だと思います。多少劣りますが、本作ではBrian Goddingがギターで他のバンドではなかなか聴けないタイプのソロを聴かせてくれます。「Köhntarkösz」が恐ろしいのは、この狂乱の即興演奏を利用してさらに上のレベルまで駆け上がることをしているからです。普通人がそこまでするかと思うことをやってしまうのが彼等なのです。ここから先はスタジオ録音のものが良いのですが、演奏が凶暴に盛り上がり、トップのベースは高音でうねり、何故か加速し「Köhntarkösz」を特徴付けるリズムが次第に前面に現れ、スキャット隊の原始的な金切り声と共にフィナーレは導かれます。大抵、私は正気を失います。再び現れる生ピアノ+ドラム+スキャットによるリズムを背景にヴァンデがコバイア語の呪文を詠唱し始めます。この才能!ここまで曲が凶悪に盛り上がっているのに、さらに追い討ちを掛けることが出来るなんて信じられません。一度、ピアノによりあの印象的なフレーズが高らかに演奏されます、が再びヴァンデ!さらに熱を帯びた孤独な叫びは最後に喉を振り絞った天使の絶叫と化します。恐ろしい。…彼を包み込む様に優しい、優しいピアノが、その優しさ故に力強く音階を駆け巡り、どこまでも頂点を目指し、そして重低音を響かせる厳かな読経で、この一大組曲を纏め上げます。
 これが「Köhntarkösz」です。私は彼の狂気に心底共感します。

Ork Alarm / オルクの警告  5:30

 前曲の影響で影が薄くて可哀相なのですが、この曲はトップのベースとスキャットの上をこれまた彼のチェロが『太陽と戦慄パートⅠ』の最初のヴァイオリンの様なフレーズを奏で続ける、格好良い曲です。

Coltrane Sündïa / 永遠のコルトレーン  4:14

 これはタイトル通りジョン・コルトレーンに捧げた一品で、ピアノが美しいレクイエム。本当に、彼等の音楽にはピアノが似合います。ピアノと、ドラム、そしてベースに声。