『Mythes & Legendes - 神話と伝説 Vol.4』



 05年に行われた35周年企画シリーズの終幕にして最高傑作です。今回は主に『Merci』以降の楽曲から。
 『Vol.2』並に濃いレパートリーです。シリーズ中で最も「楽しそう」、かつ「パワフル」。『Vol.3』も相当強烈な演奏を披露していましたが、本作は主にヴァンデのヴォーカルと演説、さらに声楽隊による超絶的なコーラスワークによるところが大きい様に感じられます。

Zëss  32:37

 私の中では、この演奏は現在に至るまでに出されたMAGMA関連の全ての音源の中でもベスト3に入るくらい神々しいものです。MAGMAのMAGMAたる所以、彼らの本領、全てが詰め込まれた極限の表現です。それは同時に、私を違う世界へと連れて行く感覚、どこかへ引き込まれる感覚を誘発するものでもあります。この「Zess」を聴くとき、明らかに私はある種の期待と恐怖を感じ、ヴァンデの絶叫の瞬間に最高の生を味わっているのです。たまりません。この32分間に比べると『Hhai』の「Kohntark」も「Mekanik Zain」も鼻歌に聴こえます。
 不思議なことに、一般には「Zess」の評価は"そこまで良くない"、"まだ続くのか"といったものらしいです。私はこの「Zess」程トランス出来る重低音テクノを知りませんし、ここで聴けるヴァンデの演説の声とスキャット程華麗で凄絶な音色の楽器を知りません。
 二つ程思い当たるフシがあるのですが、『Attahk』のところで書いたように、彼らの後期の作品の傾向は一言で言って"強烈な躁状態"です。もしかしたら初期の作品「M.D.K」、「Kohntarkosz」は非常に解り易い攻撃性と暗鬱な雰囲気を持っていたために我々は共感しやすかったのかも知れません。それに比べて「Zess」や「K.A」は"難解"なのでしょう。
 もう一つ。「Zess」は以前にご紹介した動画を除くと公式には4種類ほどの演奏が聴けますが、その内完全なものは「Bobino 1981 CD / DVD」のものとこの音源のもののみ。しかし実は「Bobino 1981」のものはCD、DVDの演奏共に余り出来上がっていない印象を受けます。従って勿体無くもこの音源を聴かずに「Zess」を判断されている方が居るのなら、是非とも聴いて、「Zess」に対するイメージを払拭して頂きたいと思います。
 ところで躁状態にある作品というものは集中力と体力を要請するという点で、クリムゾンのヌゥオヴォ・メタルに近いとも言えそうです。一体どこの誰がすき好んで、何の感情的要素も無い力の塊である「太陽と戦慄パートⅣ」を嬉々として聴くのでしょうか。ああ、そういえば私がそうでした。そういうことです。


暗闇の中、詩を朗読するヴァンデ。

In A Dream  2:14

 次の曲のイントロになる即興演奏です。ローズ・ピアノの音色は良いですね。こういう、少し湿っぽい雰囲気でぽつりぽつりと弾いてくれると嬉しいです。

The Night We Died  3:46

 公式音源初登場です。みなさん勢揃いで素敵な歌声を響かせています。

Otis  9:00

 個人的に「Zess」の次に楽しみだった名曲。ヴァンデの歌声は「Bobino」の頃よりも抑制の効いた声ながら、叫ぶところではより情熱的に絶叫します。ローズ・ピアノの音色も素晴らしい。途中でノイズが入るのが玉に瑕……。

MAGMA "Otis" final cut

Kohntarkosz Anteria  50:00

 満を持して、色々パワー・アップしたライヴ版の登場です。ここで初めてヴァンデはドラムを演奏しますが、かなり熟した歌わせ方をしています。
 コーラス隊は特に「K.A Ⅱ」でスタジオ録音を遥かに凌ぐ、万華鏡を思わせる音風景を見せてくれます。
 「Om Zanka」パートもこれまたスタジオ録音とは全く比較にならない爆発具合。「Gamma Anteria」も低音が効いていてとても良いです。
 これ程の完成度を持った曲を何らミスをせずに、しかも魂を込めて演奏してしまう彼らの精神力、音楽に捧げる思いというものに触れることが出来て良かったです。欲を言うなら、CD形態で同じものを出してほしいかも……。

"mega performance of Kobaïa"  9:53

 一連のシリーズでゲスト参加した人間(ベノワ以外)を掻き集めて、コバイア。窮屈そう。
 パフォーマンス自体は如何でも良いところなのでしょうが、意外とトランペット氏が熱狂していて微笑ましい。


 ……ライナーによると、パガノッティ兄妹とボーギが脱退するそうです。現メンバーは2000年以来多少変動は有りましたが、最高に近い布陣であったと思うので残念なところです。